この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
ネットビジネス専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
有名YouTuberの他、せどりや転売・物販、アフィリエイトなど、各ネットビジネス界のパイオニアらの税務顧問を多数担当。マスコミ実績多数。
自身も業務でネットを活用することで、北は北海道から南は沖縄の離島まで多くのクライアント実績を持つ。
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弊社はIT関係やネットビジネス専門の会計事務所ですので、全国におられるクライアント様の中には、youtuberやアフィリエイターさん等の他、せどりや物販、転売のように商品仕入れをして、Amazonやヤフオクなどで販売をされている方も多くいらっしゃいます。
そんな中、以前にネットビジネスの中でもとりわけ、せどりや物販、転売など、商品を仕入れて販売するビジネスをされている方にとって、国のインボイス制度の導入により、ビジネススタイルにどのような影響があるのかという話を書かせていただきました。
関連記事>>>『せどりや転売は注意!?インボイス制度で売上が減って消費税が増える?』
その際、主に消費税の課税事業者の方のお話を書かせていただきましたが、影響があるのは実は課税事業者だけではありません。
つまり、免税事業者の方にとっても非常に影響がある制度ですので、どのような影響が考えられるのか?
また今後、場合によっては死活問題になりかねないほどの重要な判断である「このまま免税事業者でいるのか?それとも課税事業者になるのか?」の判断基準に焦点を当てて、今回は解説してみましょう。
消費税とインボイス制度のおさらい
インボイス制度とは、令和5年10月1日から導入されるもので、簡単に言うと、消費税の税金を計算する上で重要になる「仕入税額控除」のルールが厳しくなるというものです。
この仕入税額控除とは、消費税を二重で支払わなくても良いように、販売時に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引くことを言います。
具体的な数字で言うとこのようになります。
- 10,000円の商品を売ったとき……商品代金:10,000円 + 消費税:1,000円 = 11,000円をもらいます。
- この商品を仕入れた時の価格が5,000円だったら……商品代金:5,000円 + 消費税:500円 = 5,500円を支払います。
この売ったときの1,000円分の消費税は預かっているだけなので、国に納めなければならないのですが、その1,000円から仕入れの時に払った500円は引いてもいいよというのが仕入れ税額控除です。
つまり計算式ではこうなります。
1,000円 – 500円 = 500円……国に納める分
しかし、この仕入税額控除は何でもかんでも引けるわけではなく、ルールを守っていたら引いてもいいよというものなのですが、今まであったルールがさらに厳しくなるというのが、今回のインボイス制度なのです。
インボイス制度で変わる内容とは?
では、どのように仕入税額控除のルールが変わるかと言いますと、令和元年9月30日までは請求書等(と帳簿)を保存していれば良かったのですが、令和元年10月1日からは「区分記載請求書」、令和5年10月1日からは「適格請求書(インボイス)」にて保存をする形に変更になります。
しかし、このインボイス(適格請求書)は誰でも発行出来るものではなく、発行するためにはインボイス発行事業者の登録が必要です。
一言に登録と言いましても、これまたルールがあり、インボイス発行のための事業者登録は、消費税の課税事業者でなければ申請ができない事になっています。
そのため、現在は消費税の免税事業者の方でも、自ら課税事業者の選択をすることでインボイス発行事業者登録をすることが可能となります。
ただ、言葉だけで「課税事業者の選択をする」というと簡単そうに聞こえますが、実際には注意すべき点がいくつかありますので、次に詳しく見ていきましょう。
そもそも課税事業者になるべきかどうか?
先程もご説明した通り、インボイスの発行事業者の登録をするためには、消費税の課税事業者であることが前提条件になります。
そのため、まずは「そのまま免税事業者としてビジネスを続けるのか?」それとも「敢えて課税事業者を選択するのか?」ということを決めなければなりません。
それではどういったことを考慮して、判断していくことになるのでしょうか。
課税事業者のメリットとデメリットについて
メリットとしては、消費税の課税事業者を選択することで、インボイスの発行が可能になり、相手先から取引の際に不利な条件を出されるリスクを避けることが可能になることが考えられます。
例えば取引先の課税事業者からすれば、仕入税額控除のできない免税事業者から商品を仕入れるよりも、控除可能な課税事業者と取引した方が得になるだろうと考えるのは自然なことでしょう。
ただデメリットとして、課税事業者になると今まで支払う義務のなかった消費税を支払わなければなりません。
今までは預かった消費税も含めた金額が利益として手元に残っていましたが、その中から消費税を支払うことになります。
課税事業者になって消費税を支払うと?
今まで支払う義務のなかった消費税を支払うということは、全く同じ内容のビジネスをされている場合、必ず利益は少なくなります。
わかりやすい数字で見てみますと、
- 売上……商品代金:10,000円 + 消費税:1,000円 = 11,000円
- 仕入れ……商品代金:5,000円 + 消費税 :500円 = 5,500円
売上:11,000円 − 仕入れ:5,500円 = 5,500円……今まではこれが利益でした。
ところが課税事業者になると消費税を納めなくてはなりませんので、
利益:5,500円 − 消費税納税分:500円 = 5,000円……最終的にこれが利益になります。
なので、この取引を今までと同じ利益にするためには、売値を上げるか、もしくは仕入れ額を下げなければキープすることは出来ません。
ただ、売値を上げると買ってくれる相手先を失う可能性も出て来るでしょうし、仕入れの価格を値切れば、売ってくれる相手を失う可能性も出て来ることが考えられます。
インボイス制度では課税事業者になって損して得を取る方が正解?
上記のことを考えると、引き続き免税事業者のままで取引を行うのであれば、消費税を上乗せした金額を請求することは難しくなる可能性が出て来るでしょう。
ここまででお話してきた通り、課税事業者の取引先からすれば、仕入税額控除が出来ない相手(免税事業者)に対して、消費税を上乗せして支払うと、その分自分が損をすることになるからです。
そのため、免税事業者に対して今まで上乗せしていた消費税を差し引いた金額で販売するよう求められる可能性は十分考えられるかと思います。
先ほど、今までは
- 売上……商品代金:10,000円 + 消費税:1,000円 = 11,000円
- 仕入れ……商品代金:5,000円 + 消費税:500円 = 5,500円
売上:11,000円 − 仕入れ:5,500円 = 5,500円……これが利益
だと説明しましたが、これまで商品代金に上乗せしていた消費税、これを請求できなくなる可能性があるということは、つまり以下のような計算になります。
売上……商品代金:10,000円 + 消費税:0円 = 10,000円
仕入れ……商品代金:5,000円 + 消費税:500円 = 5,500円
売上:10,000円 − 仕入れ:5,500円 = 4,500円……これが利益
つまり、売上も利益も両方減るのです。
消費税は納めなくても良いものの、利益が1,000円も減ることになります。
ここでお気づきの方もおられるかもしれませんが、先程の、消費税を支払うケースの計算をもう一度見てみましょう。
- 売上……商品代金:10,000円 + 消費税:1,000円 = 11,000円
- 仕入れ……商品代金:5,000円 + 消費税:500円 = 5,500円
売上:11,000円 − 仕入れ:5,500円 = 5,500円……今までの利益
利益:5,500円 − 消費税納税分:500円 = 5,000円……手元に残る利益
この数字だけを見ると、敢えて課税事業者を選択し消費税を支払った方が、免税事業者のままで商品代金に消費税を上乗せ出来なくなるケースよりも、手元に残る利益は多くなるのです。
もちろん、他にも考慮すべき点があるかもしれませんが、シンプルに考えるとこういった事も考えられるということです。
なので実際には、上記のように損して得を取るのか?新たなビジネスを始めるのか?等、様々な選択肢から判断することになろうかと思います。
消費税はあくまで預かったお金である!
一般的に赤字であれば税金はかからない、もしくはかかっても少額というイメージを持たれている事業者の方も多いかもしれません。
但し、冒頭でも書かせていただきましたが、消費税は「預かっている税金」です。
預かっているだけですので、実は消費税は事業が赤字であっても支払わなければならない税金なのです。
つまりただ単純に「赤字 = 税金がかからない」と認識されている事業主の方は、申告時期になって焦らないよう注意して下さいね。
まとめ
今回はインボイス制度の導入により、免税事業者のままでいるのか?それとも課税事業者を選択するのか?の判断基準に焦点をあててお伝えしました。
実際のビジネスにおいては、取引先との関係等もっと複雑な要因が絡んでくるかと思いますので、上記で説明したような単純な計算式だけでは判断出来ない部分も出てくると思いますが、判断される際の一つの参考にしていただけたら幸いです。
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