この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
ネットビジネス専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
有名YouTuberの他、せどりや転売・物販、アフィリエイトなど、各ネットビジネス界のパイオニアらの税務顧問を多数担当。マスコミ実績多数。
自身も業務でネットを活用することで、北は北海道から南は沖縄の離島まで多くのクライアント実績を持つ。
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令和5年10月1日から施行のインボイス制度ですが、令和3年10月1日からインボイス発行事業者登録がスタートし、手続きを進めておられる事業者の方もいらっしゃるでしょう。
そもそもインボイス登録事業者になるのかどうかの判断も難しく、中には決めかねているという方もおられるかもしれません。
過去の記事で、今までのビジネススタイルでは通用しなくなる可能性があると書かせていただきましたが、実はそれ以外にも、今まで通りのビジネス展開が出来なくなってしまうケースがあるのです。
関連記事>>>『インボイス制度では課税事業者になった方が得?税理士が具体的に解説!』
具体的に説明しますと、これは弊社に実際あったご相談ですが、せどりや転売の効率化を図るために、Amazonのアカウントを家族などに依頼して複数作成し、そのアカウントで得た収益を自分の所得として確定申告しているという方で、Amazonが発表しているインボイスの説明を見て困ってしまったというものでした。
Amazonは原則、1名義につき1アカウントと規約で決まっていますが、上記の方のように複数取得している別名義のアカウントにはご自身のインボイスナンバーを登録する事ができません。
これにより、Amazonでビジネスが続けられなくなる可能性が出てきてしまったというわけです。
しかも「じゃぁ自分名義のアカウントだけインボイスを発行するようにしよう」という簡単な問題では実はありません。
恐らくこの相談者の方と同じように、Amazonや他の業者で、何らかの理由で他人のアカウントを借りて得た利益を、ご自身の所得として申告している方も中にはおられるでしょう(実際にそういった方法を勧めている塾やコンサルの方もおられるようです)。
もちろん各業者の規約違反の是非については今回取り上げませんが、今回はインボイス導入によって、税務上、どのような影響があるのか、今後の選択肢はどんなものがあるのかについて解説しますので、Amazonに限らず、複数アカウントに規制のあるプラットフォームをご利用の方は、これからの対応の参考にしていただければと思います。
そもそもインボイス制度とは?
まずはインボイス制度について少しおさらいしておきましょう。
事業者は、消費者から預かった消費税を消費者の代わりに国に納めるのですが、事業者も商品を仕入れる時に消費税を支払っていますので、預かった分とすでに払った分が二重で課税されないように、預かっている消費税から仕入れの時に支払った消費税は引いてもいいよというルールがあります。
ルール上、支払った分を引いても良いとなってはいますが、もちろん引くためにはそのルールに則る必要があります。
少し難しい言葉で、預かった消費税から支払った消費税を差し引くことを「仕入税額控除」と言いますが、この仕入税額控除のルールが厳格化されたのが「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度です。
消費税の計算をする上で、このインボイス制度のルールに沿っていなければ、仕入れ分の消費税を引くことは出来ません。
そのためには、消費税の課税事業者(またはこれから課税事業者になる方)は適格請求書発行事業者の登録をし、インボイスナンバーを取得し、インボイス(適格請求書等)にその番号を記載し発行する必要があります。
そしてこのインボイスナンバーが今回のお話のポイントになります。
なぜAmazonやASPで複数アカウントを作る必要があるの?
せどりをされている方や、海外からの輸入転売などで使われるプラットホームの中で、特にAmazonやメルカリ等が有名ですが、1名義で複数のアカウントが作れないよう規約で決まっている業者も多くあります。
先日ご相談いただいた方にも理由を伺うと、AmazonのFBAなどを使って物販や転売する際に、万が一、アカウント停止や削除(いわゆるBANですね……)されるといった致命的なリスクに備えて、家族名義などで複数アカウントで運用しておいて、その全ての収益を自分の所得として申告されているとのことでした。
実際はAmazonやメルカリの規約に反していますので、本当はやってはいけないことではありますが、別の見方をすればビジネスにはリスクヘッジも必要でしょうし、事業存続のために致し方なく複数のアカウントを用意する、という考え方も分からなくはありません。
実際、自分が悪いことをしていなくても、不慮のトラブルや競合他社からの嫌がらせなど、意図せず停止されることもゼロではありませんので、突然アカウントが停止されてしまえば、それだけでビジネスがストップしてしまいますし、運良くそのアカウントの停止を解除してもらえたとしても、その間の売上は0になってしまいます。
そう考えると事業者にとってアカウントの停止は死活問題になりますので、規約違反とわかっていてもリスクヘッジの為に家族などのアカウントを複数運用されている方は結構おられるようです。
ただ規約違反以外にも、今回のインボイス制度の導入によって税務上のリスクも増えますので、その辺りについて実際のAmazonの見解や、今後の対策について見ていきましょう。
他人名義のアカウントに自分のインボイスナンバーは登録できない?
冒頭でも少し書かせていただきましたが、他人のアカウントに自分のインボイスナンバーは登録できません。
例えば、トヨタがホンダのインボイスナンバーを使ったら大問題ですよね。
これが個人間(家族)でも、個人と法人の間でも、同じ考え方だということです。
今後、Amazonやメルカリだけではなく、インボイスナンバーの入力(インボイス発行事業者かどうかの確認)を求めて来る事業者は増えてくるでしょう。
ちなみにAmazonでは、インボイスナンバーが入力されない場合、この業者はインボイスの発行が出来ませんという事がわかるようになります。
そうなると過去のブログ記事でもお伝えしましたが、仕入れる側からすれば、同じ商品等を仕入れるのであれば仕入税額控除の出来るインボイス発行が可能な業者から仕入れよう!となるのは当然のことでしょう。
尚、Amazonのよくある質問でもこのように書かれています。
本制度開始後、主にAmazon Businessをご利用の法人・個人事業主のお客様からの購買を控えられ、売上に影響を与える可能性があります。このような影響を踏まえ、免税事業者の出品者は番号の取得有無を判断してください。
引用元:Amazonよくある質問より抜粋
このような事態を避けるために、ご自身がインボイス発行事業者の登録を行ったとしても、問題となるのが他人名義のアカウントを運用している場合なのです。
インボイスナンバーの登録についてAmazonは明確に回答している!
上記以外にもAmazonのよくある質問の中で、「セラーセントラルに入力する適格請求書発行事業者登録番号は、出品アカウントに登録している出品者名で登録した番号である必要がありますか?」という質問があり、以下のように回答されています。
はい。出品者に代わってAmazonが発行する請求書には、セラーセントラルのこちらのページで登録されている出品者名と適格請求書発行事業者登録番号が記載されます。これらが一致しない場合には、セラーセントラルに入力された適格請求書発行事業者登録番号は無効となり、請求書への表示等を行わない場合がありますので、必ずアカウントで登録している出品者名で登録した番号を入力してください。
引用元:Amazonよくある質問より抜粋
となっていますので、あくまで出品者と登録事業者が一致していないといけません。
簡単ではない?他人名義を使っている場合に考えられる選択肢は?
インボイスナンバーを入力する時に出品者名と一致しないといけないということがわかりました。
では、他人のアカウントを利用している場合、どういう選択肢があるのか考えてみましょう。
自分名義のアカウントと他人名義のアカウントを利用している場合は?
例えば、事業を行っているAさん(個人事業主)ご自身名義のアカウントと、ご家族Bさん名義のアカウントを利用し、得た利益をAさんの所得として確定申告している場合、つまり2つ使用しているアカウントの1つは納税者本人というパターンだったとします。
Aさんのアカウントは出品者と登録事業者が一致しますので、Amazonにてインボイスナンバーの登録はできるでしょう。
であれば、Aさんのアカウントだけ登録して、Bさんのアカウントは登録なしにすれば良いのでは?
と思われるかも知れませんが、実際にはそれは現実的ではありません。
そもそもAさんがインボイス発行事業者に登録しているのであれば、原則Aさん(事業者)の全ての売上に対してインボイスを発行する義務がありますので、Bさんのアカウントの分だけ発行しないということは、インボイスのルールに違反することになると考えます。
つまり、もし仮にAmazonのシステム上は登録出来たとしても、今度は確定申告の際などに税務上の問題が出て来る可能性があるということです。
となると、Aさんのみが事業主である場合の主な選択肢としては、
- Aさんのアカウントのみに絞る
- Aさん自身もインボイス発行事業者は選択せず、売上に影響が出る可能性を受け入れる
その2択に恐らくなるでしょう。
この場合はまだご自身のアカウントがありますので、リスクヘッジができなくなる、今までよりも規模が小さくなるといった事になってしまったとしても、そのまま事業の継続は可能かと思います。
ではもしご自身のアカウントがない場合はどうなるのでしょうか。
全て他人名義のアカウントを利用している場合は?
個人事業の場合、全て他人のアカウントということは少ないかも知れませんが、法人の場合はあり得るケースです。
例えば事業を行っているのが株式会社○○ (法人)で、社長であるCさんの名義のアカウントと、社長の奥さん(役員)であるDさんの名義のアカウントを利用し、株式会社○○の所得として申告していたとしましょう。
つまり、2つ使用しているアカウントのどちらも法人名義では無いパターンの場合です。
アカウントが法人名と一致していませんので、どちらも法人のインボイスナンバーは登録できません。
となると選択肢としては、
- 法人名義のアカウントを新規で作成し、インボイスナンバーを登録してイチからアカウントを育てていく
- インボイス発行事業者は選択せず、売上に影響が出る可能性を受け入れる
の2択になるでしょう。
せどりや物販をされている方は、新たにアカウントを育てていくには手間も時間もかかることはご存知かと思いますが、どちらを選択したとしても(少なくとも一時的には)売上が減少してしまう可能性はあるでしょう。
こうなった場合、これまで通りAmazonでの出品を続けるのか、新たに他の販路を開拓するのか等、ビジネスの展開方法を考える必要が出て来るかも知れません。
まとめ
今回はAmazonなど、複数アカウントの作成を禁止しているプラットフォームにおいて、規約に反して複数アカウントを作成し取引している事業者はインボイスの導入によって規約違反が露呈し、ビジネスを続けることが難しくなる可能性について解説させていただきました。
会社存続のためや、リスクヘッジのためといっても、本当はやってはダメなことをしていますので、仕方がないと言ってしまえばそれまでなのですが、現実的にインボイス導入をきっかけに体制の変更を考えざるを得ないかも知れません。
税金の計算上は、実質所得者課税の原則によって名義人ではなく実際に稼いでいる人の所得とするという考え方がありますが、インボイスナンバーの扱いは残念ながら同じようにはいきません。
これからビジネスを始められる方は、今から気をつければ良いのですが、すでに他人のアカウントでビジネスを始められている方にとっては危惧すべき事案かと思いますので、まだ悩まれている方はこういったアカウントとの兼ね合いも考慮した上で、今後の展開を考えていく必要があるでしょう。
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