この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
ネットビジネス専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
有名YouTuberの他、せどりや転売・物販、アフィリエイトなど、各ネットビジネス界のパイオニアらの税務顧問を多数担当。マスコミ実績多数。
自身も業務でネットを活用することで、北は北海道から南は沖縄の離島まで多くのクライアント実績を持つ。
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前回のブログ記事で、メールやダウンロードなど、オンラインでの領収書などをプリントアウトして保存することが出来なくなることを解説しました。
関連記事>>>『ネットビジネスで領収書の電子帳簿保存、やり方を間違えると罰則が?』
そんな中、逆に
「領収書の保管が煩わしいので、スキャンしておけば原本は捨てても良いですか?」
という問い合わせもあります。
なんとなく、領収書をスキャンすれば紙で保存しなくても良くなるらしい、という話を聞いた事がある方がおられるかもしれません。
これについては以前にコチラの記事で解説したことがあり、結論から言いますと、スキャンして保存する事は可能ですが、それには様々な要件があり、その要件をクリアする必要があります。
一般的に、いわゆる商品を仕入れて売るようなお商売をされている方は、アフィリエイターの方やYouTuberの方に比べて領収書の数が多く、しかもこれを原則7年間は保管する必要があるため、出来るだけコンパクトに、出来れば破棄してしまいたいと考えられる方も少なくないでしょう。
ただ、令和4年1月1日から「電子帳簿保存法」の大幅な要件の緩和が決まり、先ほどのリンク先の条件が緩くなります。
また令和5年10月1日からの「インボイス制度開始」に合わせ電子インボイスの導入を考えている事業者の方も多いと聞きます。
なので今回は、電子帳簿保存法の中でも、特にかさばる領収書や請求書などを電子化して保存するための「スキャナ保存制度」について、変更点も含めて詳しく解説していきましょう。
まず電子帳簿保存法とは?
スキャナ保存のお話をさせて頂く前に、まず簡単に「電子帳簿保存法」のお話をさせていただきます。
電子帳簿保存法は、遡ること1998年に税制改正の一環として創設されました。
高度情報化やペーパーレス化が進む中で、帳簿書類の電磁的記録(いわゆる電子データによる保存)の容認を求める声があり、文書保存の負担軽減を図る観点から始まりました。
こういった動きにより、徐々にかなりの種類の書類が紙での保管が必要ない事になったのですが、未だにそこまで普及していないのには、最初に書かせていただいた「様々な要件をクリア」しないといけない部分が引っかかってくるからです。
元々、紙媒体での保管でも厳格な規定のあるものですので、電子データでの保管になったからといって、どんな方法で保管してもいいというわけではもちろんありません。
当然様々な細かい要件(ルール)が定められていて、その要件がクリア出来ないと、いくらスキャナーで領収書をスキャンしていても全く意味が無いのです。
領収書をスキャンして残せる「スキャナ保存制度」とは?
そして、電子帳簿保存法の中でも「スキャナ保存制度」は、取引先から受け取る領収書や請求書、レシート、契約書、見積書、納品書などを、書面による保存に代えて、一定の要件の下でスキャン文書による保存が認められるというものです。
これによりオフィスの省スペース化であったり、ペーパーレスになることで環境への配慮や、紙やインク、ファイルなど消耗品のコストの削減、業務の簡略化も進むと考えられています。
このようなメリットがあるのであれば導入が進みそうなものですが、(国税庁の税務統計なので少し古い情報になりますが)平成30年の時点でスキャナ保存を導入している企業はわずか4000件と言われています。
年々増えていってはいますが、電子帳簿保存の承認が累計で27万件あるうちのスキャナ保存での承認が4000件というのはかなり少ないと言えます。
導入企業が少ない原因は、冒頭から書かせていただいている通り、要件が非常に厳しく、メリット以上に負担に感じる部分が多いと言うことです。
では実際に電子データで保存するためにどういった部分がメリット・デメリットになるのか見ていきましょう。
電子データで保存するための要件(ポイント)とは?
電子データで保存する場合、データが改ざんされていないかどうか、そのデータが正しく保存されているものなのか、またそれを証明できるような状態にしなければなりません。
これを「真実性の確保」「可視性の確保」といいます。
そのためにたくさんの取り決めがありますが、令和4年1月1日分から緩和される部分も複数ありますので、それも含め見ていきましょう。
事前承認が必要である
制度を導入したいと思っても、その導入の日の3ヶ月以上前に申請書を提出し、税務署長に承認される必要があります。
この申請書を作成する段階でも、データで保存するためのシステムの準備が必要で、データで保存する書類の種類や保管場所、スキャンする機器のメーカー名や機種名、台数、設置場所などの様々な取り決めの記載が必要で、しかも事前に全て揃える必要がありました。
正直申し上げて、申請書を見ただけでその気がなくなってしまう方も多いのではないか、と思うほどに細かい申請内容です。
と、かなりここだけでもハードルが高いのですが、この事前承認は令和4年1月1日からは不要になります。
ただ、事前の承認は不要になりましたが、どんな機器を使用しても良いというわけではなく、一定の規格以上である必要や承認されている機器を使用する必要がある事には変わりありませんので、そういった機器の導入にかかるコストは変わらないということになります。
タイムスタンプの付与が必要?
受領した領収書などをスキャナで読み込む際に、タイムスタンプというものを付与する必要があります。
タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術のことで、これが付与されていなければ原本の破棄は出来ませんし、電子データでの保存とすることが出来ません。
また、現行法では受領してから3営業日以内に、受領者が自署し、タイムスタンプを付与しなければならないルールとなっていて、担当者の対応に余裕はありません。
ただ令和4年1月1日からは、受領者の自署は不要、受領後2ヶ月と7営業日以内の対応と期間が長くなりましたので、担当者も余裕を持って処理に当たれるようになりました。
また、電子データの修正・削除が履歴に残せるシステムであれば、タイムスタンプの付与に代えられるようになりましたので、かなり大幅な緩和と言えるでしょう。
ただ、タイムスタンプなどで改ざんされていないことを証明する事自体が不要になったわけではもちろんありませんので、そこは勘違いされないよう注意が必要です。
また、タイムスタンプを導入する費用は一般的に言うハンコと違って(利用するサービスによりますが)、タイムスタンプの導入費用だけでなく、毎月もしくは毎年、利用料や更新料が発生するケースが一般的ですので、企業によってはその負担感が大きいケースもあるでしょう。
適正な事務処理の要件が緩和される?
不正を防止する目的から、内部のシステムに関する要件も厳しく決められています。
適正な事務処理が行われているか確認をするため、定期検査を行う必要があり、スキャナで読み取る人と別に原本とスキャンした内容が相違ないか確認するため(相互けん制)の人員の確保が必要になります。
相互けん制の人数も最低で3人、小規模事業者で2人必要となり、特にマンパワーにも限りがある中小企業からすると、このような体制を整えるのも容易ではないでしょう。
また、定期検査での原本照合と事務処理が正しく行われているかの確認が終わるまでは、スキャンした原本の破棄は出来ないため、結局の所、現行法では一定期間は紙のまま保管しておかなければなりません。
こちらも、令和4年1月1日からの改正で、相互けん制や定期検査が不要になり、原本の保管もスキャン後すぐに破棄が可能になりました。
ただ、要件としては不要になりましたが、実際のところは社内で健全に業務管理を行えているかというチェック体制は必要になると考えられますので、全く無くしてしまう事は難しいでしょう。
検索要件の緩和について
電子データを保存する際に、内容の閲覧やデータ管理が出来るよう、検索機能を確保する必要があります。
- 取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること
- 日付又は金額の範囲指定により検索できること
- 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
このように要件が複雑でこういった部分も導入のハードルを高くしています。
令和4年1月1日からは、取引年月日、取引金額、取引先に限定されるため大幅に緩和される事になります。
罰則の強化について
今までは要件が厳しく、導入に足踏みしていた会社も多いかと思いますが、今回の要件緩和で導入がしやすくなるため導入がかなり進むと見られています。
しかしその一方で、不正行為に対する罰則が強化される事になりました。
適正な保存を担保するための措置として、スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が整備されました。
引用:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
つまり、重加算税(過少申告)35%に更に10%上乗せされるため、45%という高い税率のペナルティが課せられることになるのです。
まとめ
今回は電子帳簿保存法、スキャナ保存制度について書かせていただきました。
制度自体は、令和4年から大幅な緩和になっていますが、まだまだコストや手間、人材の確保など課題はあるでしょう。
実際のところ、領収書などの保管のためにわざわざ部屋を借りて、しかもその家賃が年間数千万になるような一等地にある大きな企業であれば、導入費用や人員の確保を考えても経費削減になる可能性が高いかもしれません。
しかし、小さなみかん箱一個で1年分の領収書が収まってしまう規模の会社であれば、タイムスタンプを押す手間やランニングコスト、人員の確保などを考えると、現状、さほど書類の保管に困っていないのであれば、特に大きなメリットは無いようにも感じます。
特にネットビジネスをされている方などは
「他の書類と同じように、スキャンしてデータ保存しておく方が場所も取らないし、すぐに検索できるから良いよね」
というところから検討される方が多いかと思いますが、領収書の場合はそういったハードルが存在していますので、もし導入を迷われている方は、費用対効果や社内のシステムの状況によってメリット・デメリットが変わって来ますので、じっくりと考えた上で選択されることをお勧めします。
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