社会保険と節税

弊社のクライアント様の中には、個人事業主の方もおられれば法人の方もおられ、その業態も様々です。

また法人の場合は、節税対策として役員報酬の支給を検討されるケースも多く、弊社のクライアント様もほとんどが役員報酬を支給されています。

この場合、会社の規模に関わらず役員報酬を支給しているのであれば、原則社会保険への加入の義務が発生します。

ちなみに上限はあるものの、この役員報酬の額が大きくなれば大きくなるほど保険料も上がりますので、

「なんとかして少しでも保険料を少なくしたい!」

と考えられる方が多いようで、巷では社会保険料の削減スキームが広がっていて、弊社にも

「これって使えますか?」

という問い合わせも寄せられています。

ネットでも検索すれば沢山そのような情報が出てきますので、この記事をご覧の方の中には、ご自身でも行いたいと思われている(すでに行われている)ケースもあるかも知れませんが、仮に保険料は下がったとしても、実は税務側から見れば、状況によってはリスクのほうが大きくなってしまう可能性も大いにありますので注意が必要です。

では税法から見て、社会保険を使った保険料の削減スキームが有効なのかどうか、順に解説していきましょう。

そもそも役員報酬と社会保険の関係性について

冒頭でも書きましたが、法人で役員(社長等)に役員報酬を支給している場合、社会保険への加入義務が発生します。

労使折半と言って、会社と社長で半分ずつ厚生年金と社会保険を支払うことになります。

一般的なサラリーマン(お勤めの方)の場合、社会保険は会社が半分負担してくれますので、老後に貰える年金が国民年金より多くなる事もあり、就職や転職の際に社会保険が完備されているかどうかが重要だとおっしゃる方もおられます。

しかし、特に社長お一人の会社で社長にお給料(役員報酬)を支給しているような場合、社会保険料は社長と会社で折半となりますので、結局は社長のお財布から全額出しているというようなイメージを持たれる事も少なくありません。

保険料の負担感は人それぞれですし、少しでも余分な出費は抑えたいと思われるお気持ちもわからなくはありませんが、メリットもあればデメリットもありますので、順に見ていきましょう。

役員のお給料と賞与について

まず法人の役員のお給料の扱いについて説明します。

法人の役員に対するお給料は役員報酬(給与)とも言いますが、役員報酬(給与)は原則損金不算入のため損金(経費)にはならないというルールになっています。

ただし条件があって、決算後3か月以内に役員報酬の金額を決定し、次の決算まで同じ金額を払い続ける形(定期同額給与)であれば、損金(経費)にしてもいいですよというルールになっています。

一般的には、この毎月の役員報酬のみを支給するケースが多いのですが、事前に金額を決めておけば「賞与」いわゆるボーナスを支給することもできます。

手続きとしては、届出期限内(※)に、事前確定届出給与に関する届出書を提出します。

※新規設立の場合や、臨時改定があった場合など状況によって期日が異なります

この届出に、所定の時期にいくら支給するかを記載して提出し、記載の内容通りに支給すれば法人の損金(経費)にしてもよいとされています。

このいわゆる役員賞与を支給するという仕組みを利用して、社会保険料ができるだけ少なくなるように調整しましょうというスキームが流行っているようです。

社会保険料には上限がある?

次に保険料の上限についてご説明しますと、健康保険料や厚生年金には上限があり、一定の金額を超えるとそれ以上の保険料はかかりません。

関連リンク>>>『全国健康保険協会(大阪府)』

少しややこしく見えるかも知れませんが、具体的な数字を入れて考えて見ますと、例えば大阪府の令和5年3月分からの保険料額表を見ますと、40歳から64歳までの方であれば、報酬月額が139万円以上の健康保険料は168,329円が上限となり、厚生年金は65万円以上で118,950円が上限となります(保険料・年金、共に全額の数字)。

これは月額の報酬額の場合の金額なのですが、賞与は別途計算することになります。

※以下、この大阪府の資料の数字(折半ではなく全額)を元に解説いたします。

計算方法は、賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額(標準賞与額)に保険料率を乗じた額となりますが、標準賞与額の上限は、健康保険料は年間573万円となり、厚生年金の場合は月間150万円となります。

例えば賞与が600万円の場合の計算式は以下のようになります。

社会保険料 573万円 × 12.11% = 693,903円
厚生年金 150万円 × 18.3% = 274,500円

このように上限が決まっていることにより、全額に対して保険料がかからないため、856,197円少なくなる計算になります。

そもそも役員報酬の額が少なければ、それに伴って保険料も低くなるのですが、生活に必要なお金をゼロにすることはできませんし、現状の年収はキープしたいと考えた場合、保険料の支払いは避けては通れないでしょう。

そこで、年収をキープしつつ保険料を下げるスキームが注目されているわけです。

年間の収入は変わらないのに保険料が下がる方法とは?

先程の上限を超えると保険料がかからないという部分を利用して、このように考える方がいらっしゃいます。

例えば、社長の年収が2400万円だったとします。

もし毎月定額で受け取った場合、月額200万円の役員報酬という事になり、社会保険は上限額の168,329円、厚生年金も上限額の118,950円ですので、年間で3,447,348円となります。

これを、月額報酬10万円、賞与2280万円とした場合、年収2400万円という金額は同じになります。

しかし月額報酬10万円の場合、社会保険料が11,867.8円、厚生年金が17,934円となりますので、年間で約357,624円。

賞与の部分は2280万円ですが、上限額がありますので、先程の社会保険料が693,903円、厚生年金が274,500円、これの合計968,403円に、月額報酬分の357,624円を足しても1,326,027円となり、年間で2,121,321円安くなる計算です。

これだけ保険料が少なくなるなら、やらないと損だと思われる方もおられると思いますが、本当にこれで問題ないのでしょうか。

手続き的には合法だが税務上は問題が?

実は、先程の手続き一つ一つはそれぞれ規定に従って進めており、役員に賞与を出せるということも、社会保険に上限があって一定金額以上はかからないことも、ルールに則っていますので問題はありません。

ではなぜこの方法を行った場合に税務上のリスクやデメリットがあるのか解説していきましょう。

事前確定届出給与の注意点について

まずそもそもの注意点として、先の章でも記載しましたが、役員に賞与を支給する場合は、届出期限内に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、これに所定の時期(何月何日)にいくら支給するかを記載して出し、記載の内容通りに支給すれば法人の損金(経費)にしてもよいとされています。

なので、例えば株主総会の時は利益が出ると見込んで支給すると決めたものの、業績の悪化で一部しか支給しなかったり、期日を守らなかった場合等は、記載通りの支給にならないため、支給額を損金にすることはできなくなりますので注意が必要です。

ちなみに、事前確定届出給与で支給すると決めていたものの、最終的に支給しない(ゼロ)という選択肢もありますが、この場合支給額が0となり、損金算入もありませんので税額には影響はありません。

ただ、支給することを株主総会で決議していますので、0にするのであれば支給日までに辞退する旨を再度株主総会で決議しておく必要があると考えます。

将来もらえる金額に影響がある?

社会保険料を下げるという手法は、今現在支払う保険料は少なくなるものの、例えば厚生年金の場合、所得の額に応じて保険料も高くなり、それによって年金の額が変わってくることから、上記の手法を使うと将来受け取れる年金の額も少なくなるという事を考慮に入れておく必要があるでしょう。

実はこれ以外にも、月額報酬額を少なく設定した場合に、損をする可能性がある事例があります。

社会保険を減らそうとすると退職金を十分に受け取れなくなる?

役員が退職する時に支払われる退職金ですが、基本的にはその金額に明確な規定はないものの、税務調査で問題になりにくい無難な算出方法として、最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率(1~3倍程度)と言われています。

もし、同じ年収2400万円の方で、在任年数20年、功績倍率3倍だと仮定して計算すると

月額報酬200万円とした場合:200万円 × 20年 × 3倍 =1億2000万円

月額報酬10万円とした場合:10万円 × 20年 × 3倍 =600万円

賞与の額は含まれませんので、この場合1億円以上の違いが出てきます。

つまり、月額報酬が低いと十分な退職金が受け取れなくなる、もしくは上記の計算よりも多く受け取ると税務調査で過大だと指摘を受ける可能性が出てくるということです。

退職はまだ先のつもりでも、もしもの時の死亡退職金も減額に?

まだまだ現役で退職しないから退職金は問題ないよ、と考えられる方もおられるかもしれませんが、これは死亡退職金にも関係してきます。

もし役員が在任中に死亡した場合、遺族は会社から死亡退職金を受け取ることができるのですが、その死亡退職金は法人では損金にでき、相続税は一定金額まで非課税です。

月額報酬額を低く設定していたタイミングに、急に亡くなった場合、受け取れる額が減ってしまいますので、遺族は十分な死亡退職金を受け取ることができなくなります。

病気だけでなく事故などでの死亡の可能性もあり得ますので、こういった点も考慮に入れておくべきでしょう。

弔慰金も減って相続税が高くなる可能性が?

役員が死亡した際、会社から役員の家族に弔慰金を支払う事ができます。

法人では損金にでき、相続税は非課税になりますが、金額は無制限ではなく、以下の計算の金額を超えた部分は相続税がかかってしまいます。

業務上の死亡の場合:報酬月額 × 3年
業務以外での死亡の場合:報酬月額 × 6ヶ月

この場合も、月額報酬の金額がベースとなりますので、低く設定してしまうと十分に受け取れない、もしくは相続税が余計にかかってしまう事になります。

今現在の保険料が少なくなっても、将来、退職金やもしもの時に本来であれば受け取れたであろう金額との差を考えると一概に得策とは言えないということです。

賞与の額が過大だと税務調査に入られる可能性が?

先の例の数字で言いますと、年収2400万円の方が月額を10万円、賞与を2280万円とした場合、この賞与が過大ではないかという部分について、税務調査で指摘を受ける可能性が考えられるでしょう。

と言いますのも、実際の業務に対する対価として受け取るものが報酬ではありますが、一般的なサラリーマンで考えると、月給10万円の人に賞与を2280万円支給することは考えにくいかと思います。

会社の役員ですので、従業員の方とは業務が異なるかもしれませんが、月額の10万円に対して2280万円はかなりの高額になりますので、全く問題にならないとは言い切れません。

もし過大だと判断されれば、多すぎる部分は経費にならなくなりますので、税金が増える事になります。

しかも、役員報酬は継続的に支給しているため、1年で1000万円分否認されれば、5年で5000万円分もの経費が否認される事になってしまいますので、支払う税金やペナルティも高額になります。

月額の報酬と別で支給する理由も必要

先ほどお伝えしたように、「事前確定届出給与に関する届出書」に賞与として支給する金額や日にちなどを記載するのですが、それ以外に理由を記載する欄があります。

その欄は「事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由」と言い、定期同額給与(今回の例で言うと月額200万円)にしない理由を書かなくてはいけません。

節税以外の合理的な理由を具体的に記載する必要があることから、特に理由が無ければ記載することができませんので、それも知っておく必要があるでしょう。

まとめ

今回ご紹介したようなスキームを提案している社会保険労務士が「税法上も絶対に問題ない」と豪語しているというお話も耳にしますが(個人的には、社会保険労務士が税務のことを強く主張するのは、税理士法に抵触する可能性もあるような気もしますが)、こういった手法は、業績を伸ばしている社長さんから質問されることはほとんどありません。

弊社のクライアント様を見ていても、しっかりと業績を伸ばしている社長はこういったスキームよりもお客さんに目が向いていて、どうすれば売上が伸びるのか、どうすればお客さんに喜んで貰えるかを一生懸命考えている方がほとんどなので、スキームには目が行かないのだと思います。

節税も大事ですが、せっかくの節税も税務調査でひっくり返されては意味がありませんので、じっくりと検討されるきっかけになれば幸いです。

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