副業の所得

2018年に「働き方改革法案」が成立し、その後も新型コロナウィルスの蔓延以降、リモートでのお仕事が一気に広がったり、副業を推奨する企業が増えたりと、時間や場所に縛られない働き方が一般的になってきました。

それに伴い、副業や、また複数の仕事を同時に本業として取り組む「複業」をされる方も増えているようで、この記事をご覧の方の中にも、いわゆるフリーランス(自営業)として活動されている方も多くいらっしゃることでしょう。

このように近年、働き方がどんどん変わってきていますが、税金のルールははなかなか同時進行とはいきませんので、どうしても後追いでの改正になります。

中でも上記に関連した話で言うと、2022年8月に国税庁のパブリックコメントが発表され、収入が300万円以下の場合は雑所得として扱うという案が出され、このまま通れば300万円以下は雑所得として扱われる事になります。

実は、このパブリックコメントが出た事により、巷では「サラリーマンは増税だ!」と騒がれているようですが、果たして実際はどうなのか、本当に「増税」なのか、今回発表されたパブリックコメントと一緒に解説していきましょう。

国税庁のパブリックコメントの内容とは?

冒頭でお話したパブリックコメントですが、国の行政機関があらかじめ改正案を公表し、広く国民から意見や情報を募集する手続きの事で「パブリック・コメント制度」と言います。

【関連リンク】

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)の概要

所得税基本通達新旧対照表

今回のパブリック・コメント制度に基づいて発表された改正案の内容を一部抜き出しますと、

事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。

引用元:国税庁 パブリックコメント 一部抜粋

となっています。

平たく言うと「副業は300万円超えなかったら雑所得として扱いますよ」という改正案です。

また、この改正の背景には、副業の所得を適正に申告する際に所得区分の判断が難しいといった課題があった、という説明が書かれていますが、線引が曖昧だった事もあり、正しい申告が出来ていない方が多かったという事が窺い知れます。

なお、副業でも、以下のような場合はすでに所得の区分が決まっているため、今回の改正は影響ありません。

  • いわゆる副業アルバイトの場合(給与所得)
  • マンション1室などといった家賃収入の場合(不動産所得)

何所得で申告すべきかの判断基準は?

確かに雑所得で申告するのか事業所得で申告するのかの線引は曖昧で、一般の方は特に判断しづらいでしょう。

実際にはサラリーマンが副業の所得を、事業的規模に至らないにも関わらず、意図的に事業所得として申告するという無理のある節税策が横行しており、これを封じ込めるための改正だと考えられています。

今回の改正は、事業かどうかの判断は、原則「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定」するとしていますが、特にポイントになるのは以下の2点です。

  1. その所得が主たる所得ではないこと
  2. その収入金額が300万円を超えないこと

両方に当てはまれば雑所得で申告する、という案になっているため、例えば一般的なサラリーマン(主たる所得が給与の方)が、副業(主たる所得では無いもの)の所得(300万円以下)を事業所得で申告することは誤りだ、という判断になるということです。

また、この改正で金額(線引)が300万円と明確になることにより、特に一般の方は申告する際に何所得で申告するかの判断はしやすくなるでしょう。

しかしその一方で何が「主」かが判断し辛い「複業」の方が不利になってしまう可能性や、金額で線引されていますので、調査官が詳しく実態を見ずに300万円基準だけで雑所得だと指摘してくるといった可能性もはらんでいると考えられます。

しっかりと反証(事業所得である旨の根拠)を示すことで、指摘を受けにくくなるのかもしれませんが、そこの線引は曖昧なままだと言えるでしょう。

横行していた無理のある節税対策法とは?

弊社へのご相談でも「ネットで見たんですがこんな方法って大丈夫なんですか?」と聞かれることも多い節税対策ですが、主に行われている無理のある節税方法は以下の2つだと言われています。

副業の所得を事業所得として青色申告し控除を受ける

一般的に、事業所得の場合は開業届と青色申告承認申請書を提出しておき、複式簿記での記帳を行い、電子申告すれば65万円の特別控除を受ける事が可能です。

この仕組みを利用し、副業の所得を意図的に事業所得として申告し、青色申告特別控除を受け、税金が少なくなるようにしていたというものです。

赤字の副業を事業所得で申告してすでに納めた税金を還付してもらう

上記の控除以外に、青色申告の場合は損益通算が可能となります。

サラリーマンの場合、多くは毎月のお給料から徴収されていた税金を会社が年末に納税者の代わりにまとめて納めてくれていますが、副業の赤字を意図的に事業所得として申告することで、計算上は、このすでに納めた税金が返ってくるという仕組みです。

この場合、すでに納めた額以上には返ってきませんが、ゼロどころか返ってくるならラッキーと思う方が多いのではないでしょうか。

そのため、わざと経費を多く計上し、赤字の額を増やし、たくさん還付してもらおうといった事も行われていたようです。

このような税金のルールのスキを突いたグレーな方法が、「雑所得で申告したら損だから事業所得で申告して上手に税金を減らしましょう」「節税対策なのでやらないと損ですよ」と当たり前のようにネット上にたくさん書かれていれば、一般的な節税方法だと思ってしまうかもしれません。

しかし、そもそも「副業の所得」は「事業所得」と言えるのでしょうか。

そもそも副業は何所得として確定申告するの?

実は国税庁のホームページでは、雑所得について以下のように書かれています。

雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。

引用元 国税庁 No.1500 雑所得

このように「副業に係る所得が該当する」と明記されています。

つまり、原則副業は雑所得で申告してくださいねとなっていますので、「副業を事業所得で申告する」ということ自体、無理があるということなのです。

そもそも事業所得とは?

では事業所得はどのようなものを指すのでしょうか。

国税庁のホームページにはこのように書かれています。

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。

ただし、 不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。

引用元:国税庁 No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) 一部抜粋

ここでは「事業してる人は事業所得で申告する」ということしかわかりません。

しかし(過去の記事でも雑所得と事業所得について触れましたが)お得になるからといって「私は事業だと思ってます」というだけで事業所得として申告できるわけではないのです。

関連記事>>>『副業の利益も確定申告が必要?雑所得と事業所得の違いを税理士が解説!』

昭和56年の最高裁判決では、「事業所得の「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうものと解されている」という判断をされています。

ポイントとしては

  • 営利性・有償性の有無
  • 継続性・反復性の有無
  • 自己の危険と計算における事業遂行性の有無
  • その取引に費やした精神的・肉体的疲労の程度
  • 人的・物的設備の有無
  • その取引の目的
  • その者の職歴・社会的地位・生活状況

こういった内容を総合的に判断しますので、何か一つをとって「事業所得だ」と判断するのは早計なのです。

これって事業所得にならないの?

よくあるご質問で「開業届出してるので事業所得になるんですよね?」であったり「事業所得で申告したけど何も言われませんでしたよ?」といったお話があります。

残念ながらそれだけでは事業だと認められたとは言えません。

と言いますのも、開業届を郵送、もしくは直接持参し提出した時に税務署で押してくれるハンコは書類の提出を受け付けましたという意味の受付印であって、事業所得と認めますというハンコではありません。

電子申請した場合はそのハンコもありませんし、送信受け付けましたという情報が残るだけです。

また、開業届と一緒で、税務署が申告書の提出を受け付けた時に押してくれるのも受付印で、その場で内容を隅々まで精査する時間がありませんので、後ほど改めて精査されるのです。

また、その後何も指摘がなかったとしても、単に泳がされているか、偶然調査にならなかっただけという可能性もありますので、残念ながら必ずしも事業所得と認められたとは言えないのです。

そして「300万円を超えたら事業所得」ではない!

最初に「副業は300万円超えなかったら雑所得で扱う」と書かせていただきましたが、ここだけを見て「じゃぁ、300万円を超えたら事業所得で申告して良いんですよね?」と思われる方もおられるかもしれません。

しかし、「300万円超え」=「事業所得」ではありません。

あくまでも、主たる所得ではなく、その収入が300万円を超えなかったら、原則雑所得として扱いますよ、というだけで、300万円超えた時点で自動的に事業所得と考えるわけではないので注意が必要です。

300万円を超えれば、原則通り「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか」で雑所得なのか事業所得なのかを判断するということです。

まとめ

今回のパブリックコメントの案がそのまま通れば、300万円以下の副業の所得を事業所得で申告することができないため、青色申告特別控除や損益通算も行なうことはできません。

また、通れば令和4年分から適用されますので、今までこのような無理のある節税対策を行ってきた方にとっては「今年から増税だ〜」と感じられるのかも知れません。

なかなか現行の税法では判断の難しいものも出てきますが、だからといって誤った申告をしてしまうとペナルティが課せられる可能性もありますので、判断が難しいものは弊社に限らず税理士などの専門家や、管轄の税務署で相談する、等をしたほうが良いでしょう。

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